トップページ | *ある消しゴムの恋* »

*Mother's Day* 

「これ、プレゼント」

 後ろ手に隠していたナイロンの袋をガサガサさせながら奈緒美はぶっきらぼうに母の逸子に手渡した。不意に、逸子の顔からどっと笑みがこぼれる。まさか、娘が母の日にプレゼントをくれるなんて思ってもみなかったのだ。毎年、それとなく打診はしていたが、いつもはぐらかされるか即興で労をねぎらうといったものばかりで遣り過ごされ、もちろん今年もそうなるだろうなと高を括っていた。だから、突然の過分な心意気に逸子は躊躇して笑ってしまったのだ。

「何、これ?」

「開けたら、わかるよ」

 下品に唾を呑み込むと、飾り気のない袋から掌サイズの箱を取り出した。

「何、これ……」

「ゲーム」

 気持ちが萎えていくのがわかった。どんどんと落ち着きを取り戻し、だんだんと落胆が襲って来て、つい本音を吐露していた。

「あたしゃ、小便臭いガキかっ」

 奈緒美は頬を紅く染めて笑うしかなかった。なんだか、とてつもなく恥ずかしかったのだ。母の日に便乗して、自分が単に欲しかったものを買って、その上、母の笑顔まで手に入れられると都合よく、傲慢に考えていた自分を情けなく思った。

「ごめん……」

 すると、逸子はおもむろに開封して店で貰う簡易マッチの大きさのカートリッジを電灯に掲げ、奈緒美の顔を見た。

「本体」

 それが、ゲーム機本体を指しているのはすぐにわかった。慌てて携帯用のゲーム機を手に取ると、逸子はカートリッジを渡し、自分が出来るそこまでセットしろ、と言わんばかりの顔ですぐにゲーム機の画面に視線を落とした。やるの? 喉もとまで出掛かった言葉を呑み込み、奈緒美は馴れた手付きで機械を作動させた。ゲームはあらゆる歪な形のブロックが現れ、それを積み上げたり嵌め込んだりするという定番のゲームだ。仏頂面ではあったが逸子は熱心に奈緒美からルール説明を聞き、時折苛立ちの声を上げながらもコントローラーを操作した。その建設的な姿勢に奈緒美の方が、心を震わせていた。こんな、『母の日』があってもいいのかもしれない、奈緒美はそう自負していた。少なからず、奈緒美はただ自分のためだけにこのゲームを買って来たわけではなかった。自分のおもしろいと思うものを逸子にもそう感じてほしくて、わざわざ遠出してまでこのゲームにこだわったのだ。そして、この迷惑な押し付けも三日後には、功を奏したと更なる確信を得ることになる。

 だって、逸子は家事の合間もゲーム機を手放さなくなったのだから……。                                                                  END

 

|

トップページ | *ある消しゴムの恋* »

「小説」カテゴリの記事

コメント

母の日・・・今年も私は何もあげなかった。来年は何かプレゼントしようかなと思いました。母親って、どんな気持ちで母の日を迎えるのかな。。。色々想像。。。

投稿: まゆこ | 2006年5月21日 (日) 00時28分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/102508/1802355

この記事へのトラックバック一覧です: *Mother's Day* :

トップページ | *ある消しゴムの恋* »